中国ネットショッピング急拡大 日中が抱える大きな悩みとは??

 

矢野経済信息諮詢(上海)有限公司

市場開発部 主任 森下智史

 

 

プライベートメールをチェックしていたところ、6月30日発行の週刊ダイヤモンドの特集記事PRが目に留まった。『佐川男子、クロネコ男子が悲鳴!物流ビジネス大異変』と銘打たれたその特集は、どうやら「インターネット通販の増加による物流(宅配便)業界の混乱」を紹介しているらしい(らしい、というのはまだその記事を読んでいないので…)。

 

 その特集PRを読んでいる限りでは、日本ではインターネット通販の拡大によって、その商品を配達する宅配便業界に大きなプレッシャーがかかっているというものであった。

 確かに近年は世界的に「インターネットで買い物をする」という行為が一般化しており、どのブランドもネットショップによる販売に重きを置いている。今回の同誌の特集は、そんな変化のなか、物流システムがなかなか追いつかないという現状を表している。

しかし、この問題を抱えているのは日本だけではない。中国でも同様の問題はすでに数年前から顕在化しており、多くの宅配会社がその解決に躍起になっている。業界関係者に話を向けたとたん「その話をするな、頭が痛くなる」と言われるほど、ポピュラーな話題になっている。

 

■中国におけるインターネットショッピング

 まず中国におけるインターネットショッピングの情況を見てみよう。下は中国インターネット上での交易額の変移を示したものである。これを見ると2013年には10.2兆元(約15.3兆円)に達しており、さらに毎年20%以上の伸び率で成長を続けている産業となっていることが分かる。

 

【グラフ12009年から2013年までの中国インターネット交易額とその伸び率

出所:中国電子商務研究中心の発表を元に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 つづいて、その内訳ではあるが、これを見ると「アリババ」を代表とするB to B市場が8割を占めており、小売市場は2割弱とまだまだ小さいように見える。

 

【グラフ22013年中国インターネットショッピングの割合

出所:中国電子商務研究中心の発表を元に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 しかし、それは大きな間違い。下の【グラフ3】を見ると、2009年ほどの急激な伸び率ではないが、それも1.8兆元(約30兆円)という巨大市場であることが分かる。

 

【グラフ3】インターネット小売産業の伸び

出所:中国電子商務研究中心の発表を元に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

■ビッグイベント商戦で物流も試練の時を迎える

 巨大市場となっている中国のE-コマース。その成長に拍車をかけているのが旧正月、国慶節の2大商戦といった伝統的な祭日、そして「七夕(中国のバレンタインデー)」や「光棍節(11月11日 1が4つ並んで独身・独り者の日)」という、新たなイベント。中国においてギフト需要が一気に高まるシーズンであるが、日本同様、そのギフトをインターネットでプレゼントを購入する消費者が急増しているのである。

 なかでも毎年話題になるのが11月11日の「光棍節」。「光棍」とは中国語で「独り者(独身以外に彼氏・彼女がいない人も含まれる)」のこと。「寂しい独り者はこの日にちょっと贅沢な自分への贈り物を買って気晴らししよう!」というものが本来の趣旨であったが、現在では各サイトともに年間で最もお得なサービスを打ち出す激しい商戦が繰り広げられるへと姿を変えている。

 メディア発表によると、「淘宝網」の正規商品交易サイトである「天猫」では2013年11月11日当日の交易額350億元と前年までの記録を刷新。またインターネットビジネスの研究機関である中国電子商務研究中心によれば、インターネット通販全体の注文数は1.67億個、11月11日当日に発送された商品だけで5697万個。うち24時間以内に注文先に届けられたのは1820万個という数字が現れている。

 こうした交易量の爆発的な増加に混乱するのは、やはり物流業界。2012年の同日は物流システムが完全にパンクするという事態が起こっている。多くの店舗が利用しているの「快递」と呼ばれるバイク便業者であったが、それらの物流倉庫には配達を待つ商品が堆く積み上げられ、配達までに数週間から数ヶ月を要してしまったのである。

 背景には取扱い商品の急増もあるが、こうしたバイク便業者の営業ポイントの規模が小さく、システムも不完全かつ人数も十分でなかったことが大きい。、

それでも、2013年においては物流業者がバイト人員を大量動員して対応すること、またサイト側も「配達に時間がかかることが予想されます」という事前通知を行なっていたこと、そして消費者側も「光棍節だからしょうがないか」という半ばあきらめに似た心境にいたこともあり、前年のような大きな混乱はきたさなかった。

 多くのサイトや物流会社が「今年は何とか乗り切った…」と天に感謝したようであるが、毎年こうしたことが繰り返されては、なによりもサイトおよび物流会社トップたちの心臓がもたないだろう。

 同様の悩みを抱える日本と中国のE-コマース&物流業界だが、これからプレッシャーが厳しくなるのは日本側のような気がする。ここは一足早く問題に突き当たった中国のe-コマースビジネスの状況を把握することで、問題解決の糸口を探してみるのもよい手法かもしれない。