ついにゴルフ施設建設取締りが始まった。中国ゴルフ市場の行方は?

 

 6月30日、ネットメディア『ハフィントンポスト』に掲載されたロイター通信社による記事がをひいた。『中国、ゴルフ場建設禁止へ強硬手段 環境問題が深刻化』というものである。(ソース:http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/30/china-golf_n_5542668.html?utm_hp_ref=japan

 記事にあるとおり、中国では環境への悪影響(おもには建設時の環境破壊、芝生の保護に用いられる農薬など)を理由に、ゴルフ場の新設を認めない方針を打ち出した。だが、実際にはそれが厳守されておらず、新たなゴルフコースが中国各地で作られていた。その多くが「渡暇村(リゾート施設)」と言う名目である。高級ホテルやSPAなどが作りつつ、ガーデンと称したゴルフ場が作られていたのである。それに対し、ようやく政府も本腰を入れての取締りを始めた様子である。

 

■増加する中国のゴルフ人口

 かつて中国にとって「ゴルフ場建設」は海外の富裕層を呼び込むためのものであった。しかし下のグラフにも見えるように、中国でゴルフを楽しむ人口も年々増加、「スポーツ市場というものが成り立たない」といわれている中国にあって、大きな市場として注目されている。

 

【グラフ1】中国ゴルフ中核人口(※)の変移

※中国国内において18歳以上かつ年に8回以上ゴルフをプレーする消費者の人口

出所:『朝向白皮書 中国高爾夫行業報告』2009年版~2013年版(朝向集団発行)をもとに

    矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 こうしたハードプレーヤーのほとんどは、いわゆる富裕層。ビジネスの世界でトップにのし上がった成功者たちは、自身のステイタスとしてゴルフを楽しみ、またバカンスにはゴルフリゾートへと出かけていく。

そして、ゴルフ場は中国富裕層に向けた会員権ビジネスの一部ともなり、大きな収益が見込める産業として規制にも関わらず拡大してきた。

実際の「ゴルフ施設」数の状況を見てみよう。

 

【グラフ2】中国ゴルフ施設数(※)の変移

※9ホール以上のゴルフコースが併設されている各種施設

出所:『朝向白皮書 中国高爾夫行業報告』2009年版~2013年版(朝向集団発行)をもとに

    矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 見ての通り、規制が発表された2004年を過ぎているにも関わらず、「ゴルフ場を併設した施設」は増加の一途をたどっている。

 しかし、ここに来てその開発に取締りと言う行政のメスが入ることになる。

 

■ゴルフ場建設取締りの裏側を想像してみる

 ロイターの記事は「環境問題への対策としての取り締まり」という論調だが、いまひとつピンとこない。

 中国のゴルフ施設建設、その大部分は広大な土地を確保できる地方都市に集中している。なかには標高2000メートル級の高地に作られたものもあり(雲南省)、ゴルフ場マニアといも言うべきプレーヤーが酸素ボンベ片手にプレーをしていたという話も、日本人駐在員の間で広まったこともある。

 こうしたゴルフ場建設は、デベロッパーなどから政府への土地使用料が転がり込み、さらには“多方面”での利益が発生するために、半ばお目こぼしされてきた。この利益こそ、業界で「ゴルフ人口に比してゴルフ場の数は明らかに多すぎる」と言う声がありながらも、ゴルフ場の数が増えていた原因なのである。

 それが今になって規制を強化するという。ここに「極めて微妙なタイミング」を感じるのである。そもそも中国政府がゴルフ場を禁止した理由も、「環境保護は建前」といううわさも立っていた。

 もともとゴルフとは富裕層のスポーツというイメージが強く、それは中国本来のイデオロギーである「社会主義」とは相反するもの。さらには国内の貧富格差が広がる中、お金持ちスポーツと見られるゴルフの普及を放置するわけにはいかなかった、というのである。いわば、ゴルフとは公的には「ご禁制」のスポーツなのである。

 この噂に関する真偽は不明ながら、習近平国家主席がアメリカを訪問し、オバマ大統領との会談を行なったのは、アメリカでも有名なゴルフリゾート。この場所で会見を行なったことで、中国では「ついにゴルフ市場の“解禁”か!」と業界は注目したが、結局CCTVなどでも会談場所についての言及は一切無く、引き続き水面下のブームとしての立場を余儀なくされている。

 また近年、中国では官僚の綱紀粛正、贅沢および腐敗の断絶というキャンペーンが張られており、大物政治家・軍人の腐敗摘発が相次いでいる時期である。

こうした現状をみながら、もう一度今回の取り締まり強化を眺めると、中国政府は「リゾートやスポーツ施設と称してゴルフ場を建設し利権を漁る」という行為を一掃しようとしているようにも見受けられる。

 

 日本では年々ゴルフ人口が減少の一途をたどっており、中国に新たな市場を求めようとする動きも強い。今回の取り締まり強化に関しては、その動きに逆風が吹き付ける形となってしまった。

 しかし、中国国内のゴルフ人口が増加しているのは事実である。そのため、業界動向を見ながら、ゴルフ観光や日本でのプレミアゴルフ商品の購入といった、新たなアプローチも考慮してみる必要があるかもしれない。