【中国産業動向】高まる中国の環境意識。化学工場設立へ新たな配慮も

 

 5月、雲南省昆明市で現在進められている工場プロジェクトの停止を求める街頭活動の模様が、中国版ツイッター・微博などを中心に伝えられた。このプロジェクトは中国石油が同市郊外に年1000万トン規模の石油精製工場を建設するというものだが、そのなかに「PX」すなわちパラキシレンが含まれていたことが騒動の発端であった。  

 

 中国では近年、パラキシレンを生産する「PX項目(“項目”とはプロジェクトのこと)」は、各地で工場建設予定地付近の住民から激しい反対を引き起こしている。パラキシレンはポリエステル繊維の原料を作る素材であるが毒性があり、特に胎児の畸形を引き起こすとして、昨年も浙江省寧波、遼寧省大連市、福建省アモイ市などでの抗議行動がメディアによって報道された。もちろん例外がないわけではなく、2009年に福建省で薦めたプロジェクトでは順調に話が進み、現在はすでに生産が始まっている。だがそれはきわめて稀なケースなのだ。

 

 こうした騒動、「偏ったパラキシレンへの知識が反対活動をエスカレートさせている」という指摘がある。2012年12月24日付けの『新京報』ウェブ版では「“PX項目”群体過敏症(PXプロジェクトの集団アレルギー)」と題する報道を掲載。「パラキシレンの毒性はガソリンと変わらない」といった精華大学の専門家の意見を引きながら、「現在、多くの都市で起こっている反対活動の背後にはその土地における既得権益受給者がおり、流布されている毒性に関しても科学的根拠が乏しいものがある」と指摘する。  

 

 しかし反対活動を見てみると、同時に「地方の生産現場に対する不審」という一面も見えてくる。

 近年は政府の努力もあり、多くの生産現場で排水や排気ガスの処理を行い、環境への影響をなくそうとしている。しかし地方の製造現場では、まったく処理をしていない工業用水を直接河川に流し込むといった行為がいまだ行われている。環境意識が低いことももちろんながら、用水やガスの浄化に多額の費用が必要であるため、「設備コストを増やしてまで行いたくない」というのが、生産業者の言い分のようである。だが、農村部では農業用水や生活用水などを、こうした河川に依存しているケースも多いため、その汚染はまさに死活問題。それが毒性を含んだ化学物質であればなおさらである。

 

 ただ、市民からの厳しい声を受け続けているパラキシレンの生産、中国にとっては推進せざるを得ないプロジェクトでもある。もともとアパレル生産工場が多く存在している中国では、大量の化学繊維が必要であり、それを生産するパラキシレンの需要も大きい。しかし今年2月28日に中国国家発展和改革委員会が行った報告によると、2012年に国内で消費されたパラキシレンが1,382万トンであったのに対し、同年に国内で生産されたパラキシレンは773万トン。国内消費の40パーセント以上を海外からの輸入に頼っている状態であり、世界最大のパラキシレン輸入国となっている。この海外依存度を下げたい、というのが業界そして政府に共通している思いなのである。

 

 生産は推進したい。しかし推進すれば地元住民の抗議活動が待っている。抗議活動が行われれば、地元政府や企業も粘り強く説得するしかなく、今回の昆明市でも抗議に対して冷静な対話を呼びかけるとともに、住民への説明会を開催するなどして理解を求めている。しかし、現在のところ建設同意には至っていない。