拡大する中国消費者の消費  商業施設増加の先にあるものは?

 

 中国、特に上海は「バブル」の只中にある。一時期に比べて景気成長のスピードが緩まったとはいえ、まだまだ上海人の消費パワーは衰えを見せていない。こうした彼らにターゲットを定めたリテール市場は、今、転機を迎えている。

 

【グラフ12005年から2013年までの平均可処分所得の変移

出所:統計局のデータを基に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて製作

 

【グラフ22005年から2013年までの中国社会消費品小売総額の変移

出所:統計局のデータを基に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて製作

 

 2つのグラフは2005年から2013年までの中国消費者可処分所得と消費商品の小売総額の変移を示したものである。

 いずれも数値も増加を続けていることが見て取れる。成長率は2007年、2008年ほどのスピードは無いものの、それでも年間10パーセント以上の伸びを見せている。

 

【グラフ32005年から2013年までの上海市社会消費品小売総額の変移

出所:統計局のデータを基に矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて製作

 

  その中でも成長を牽引しているのが上海市である。【グラフ3】は上海市の社会消費品小売総額である。上海万博が終わった後も、上海市における消費は止まることなく成長を続けている。

 この上海消費者における消費の場となっているのが商業施設。立ち並ぶ百貨店やショッピングでなのである。

2014年初のニュース報道によると、2013年に新たにオープンしたショッピングモールは16軒。同年、中国の主要20都市でオープンした店舗が150店舗であることを考えると、1/10以上が上海に集中していたことになる。

 さらにオープンした店舗の平均面積を見ても、全国新オープン店舗の平均が8万平方メートルであったのに対し、上海では19万平方メートル。なかでも32万平方メートルを誇る月星環球港(グローバルハーバー)のオープンなど規模においても話題にこと欠かなかった。

 

■分散するショッピングスポット

 

 こうした事情から拡大を続けている上海の小売(百貨店&モール)市場ではあるが、各店舗の経営においては、若干頭の痛い問題が横たわっている。

 【表1】と【表2】は主要ショッピングモールと百貨店の2012年と2013年の売上げ状況である。これを見るとモール、百貨店それぞれの上位10店舗のうち、最大の消費地である上海の店舗は2店舗ずつしか登場していない。それどころか、北京はまだしも長春市や杭州市などの地方都市の店舗に差をつけられている。

 

【表1】中国主要ショッピングモール上位10店舗の売上げ額

店名

都市

2013年の売上げ(億)

2012年の売上げ(億)

正佳広場

広州市

62

60

深セン万象城

深セン市

61

55

南京徳基広場

南京市

58.9

51.6

天河城

広州市

58

55

長春欧亜商都

長春市

53

49.7

金鷹購物中心

南京市

40

41.4

武漢国際広場

武漢市

40

40

港匯広場

上海市

39

34

恒隆広場

上海市

38

36

燕莎奥特莱斯

北京市

37

34.8

 

 

【表2】中国主要百貨店上位10店舗の売上げ額

店名

都市

2013年の売上げ(億)

2012年の売上げ(億)

新光天地

北京市

75

72.4

杭州大廈

杭州市

57

59.3

八佰伴

上海市

47

45

中央百貨

南京市

43.6

40.6

北国商城

石家庄市

39.4

39

新世界百貨

上海市

36.8

35

新街口百貨

南京市

33

29.7

王府井百貨

成都市

32.6

30.8

新世界百貨

北京市

30

27

百貨大楼

唐山市

30

29.6

 

【グラフ4】上海市の人気商圏

出所:『中国華東地域主要7都市の消費者ライフスタイル調査』(日本貿易振興機構(JETRO))

 

 この原因となっているのが商圏の増加による消費者の分散である。

 日本貿易振興機構(JETRO)が2013年に公開した『中国華東地域主要7都市の消費者ライフスタイル調査』において、上海市の消費者によく行く商圏を聞いており、その結果は【グラフ4】にようになっている。

 全14の商圏が選択肢と揚げられているが、最も人気の高い南京東路商圏でも16%。それ以外では、大部分が一ケタ台でひしめき合っているのが見て取れる。

 

 上海では一般消費者の生活エリアが市中心部から近郊外、郊外へと移動している。その理由はもちろん不動産価格の高騰である。

 知ってのとおり、中国では結婚や子供が生まれたりといったタイミングで住宅を購入する。しかし現在、上海市内では90年代に建てられた古い物件でも1平米4~5万元レベル。中国の平均的な住宅面積である100平米程度のものを購入しようとすると、500万元(約8,500万円)もの費用がかかってしまう。マクロ調整がかけられたとはいえ、一般消費者には手が届かない金額だ。

 それが近郊外では2~3万元以内、郊外にいたれば1万数千元と言う物件が残っており、ホワイトカラーでも何とか購入できるレベルとなる。しかも、近年は地下鉄も開通し、市内への通勤も便利になりつつある。

 こうした近郊外・郊外物件に住むホワイトカラーをターゲットに、物件周辺に商業施設を建設するのが昨今のトレンドとなっている。物件を開発するデベロッパー側からみれば、物件周辺の利便性が増すことで物件の価格も高めの設計が出来るため、商業施設開発にあわせて住宅開発計画を練る。また施設の開発・運営側としては、確実の消費者を囲い込むことが出来るため、住宅開発計画状況を見ながら出店計画を練る、というサイクルが出来上がっている。

 こうして「ニュータウン」付随型の商業施設が各地に建設され、周辺住民の消費ポイントとなっていくのである。

 

■消費者をひきつけられない?マンネリ化

 もう一つ、上海の商業施設が抱えている問題がある。それは「マンネリ化」である。特にショッピングモールにおいてはその傾向が強く、消費者をひきつけられなくなっている要因にもなっている。

 ショッピングモールの基本設備といえば、ファッションブランド、レストラン、映画館、その他リラクゼーション施設(美髪、SPAなど)であるが、それぞれのブランドにおいてはほぼ大差が無い、つまり各モールごとの出展テナントに目新しさがなくなっているのである。

例えばファッションブランド。市内のモール2~3店舗を回れば、そのすべてにZARA、H&M、ユニクロ、GAPが店を構えていることに気付くはずだ。

またフードにおいてもケンタッキーやマクドナルド、味千ラーメン、ピザハットかパパジョーンズ、またスターバックスやコスタなどのカフェなど、こちらにおいてもほぼ定番となっている。

 各店舗ごとモールの内装こそ異なるが、実際に並んでいるテナントはどこも同じ顔ぶれ、であれば消費者があるモールに行く理由のなかでは、「目当てのブランド」が薄れ、「自宅や仕事場に近い」といった、単にアクセスが主目的になってしまう。

 ただ、モール側にもやむを得ぬ事情はある。消費者のなかで「モールにはそうしたブランドが備わっているもの」という認識が植え付けられてしまっている。そこで一般的なブランドを避けて別ブランドを入れることで「ZARAが入っていない=たいしたモールじゃない」と思われかねないのである。

海外から中国未進出ブランドを呼び込むことは可能ではあるが、中国国内で知名度のないブランドを入れたところで、集客には結びつきにくい(中国で知られている海外のファッションブランドは決して多くは無い)。

 上海市中心部の淮海路商圏や静安寺、南京西路といった商圏では、それに変わるブランドを求めている。現在のところ、店舗側の視点は「世界のトップブランド」に向けられており、グッチ、ルイヴィトン、プラダ、カルティエ、バーバリーといった見慣れたブランドロゴが店内を飾っている。

 ただ、これも弊害が無いとはいえない。前述の人気商圏の結果を見ると、日本d目尾注目されるハイエンド商圏・静安寺や南京西路、外灘などは、消費者から 見れば「利用度」は高くない。ハイエンドの消費力は高いものの、分母となる数が少ないため、纏まった消費を狙えないのである。

 さらには、どこもかしこもトップブランドばかりでは、結局ブランドのマンネリ化を繰り返しになってしまう。

 とはいうものの、このまま手をこまねいている上海市上ではない。現在、一部の商業施設が注目しているのは「企画力」。単純なショッピング・娯楽の場ではなく、ライバルとは一線を画した新しいコンセプトを打ち出し、それに沿ったデザイン、ブランド招致を展開しようというのである。

 

矢野経済信息諮詢(上海)有限公司

市場開発部 主任 森下智史