中国「スターバックス暴利論」から見る中国消費者の価値判断

 

 内需拡大。その方針の下に、どの業界も多くの企業がしのぎを削っている。そのなかで大手外資企業がシェアを獲得している市場も少なくない。その好例がカフェ。近年急速に増加しているカフェはスターバックスやコスタなど、外資チェーンが広く展開している。今年11月、そのカフェ市場を騒がせたのが、中国政府による「スターバックス批判」であった。今回はその騒動の裏側を考えてみる。

 

 事の発端は中国共産党の機関紙『人民日報』の社説である。その内容は「中国国内におけるスターバックスの商品価格が、物価の高い先進国に比べても数倍高い」というもの。さらには、その社説をもとに中国の国営テレビ局・中央電視台(CCTV)が、「スターバックス暴利論」とも呼べる報道を大々的に流したことで、騒ぎが大きくなった。

 論調としては、「外資系企業であるスターバックスは、中国消費者相手に暴利による収益をむさぼっている」というものであった。

 

■原価計算

 この報道をよく読むと、コーヒーの原価や紙コップの価格、税率などが詳しく計算されており、さらには最新レートで海外のスターバックスにおけるコーヒー価格との比較がなされている。

 そこから考えると、中国のスターバックスの価格は若干高い。また中国の基本的な収入と比べても、欧米のような「お手軽感」は少ない。

この報道を見てふと思い出したのが、China Brand News Vol.16で上海を中心に展開する均一店「一伍一拾」の日本人スタッフ(当時)であった富井氏を取材していた際、「中国の消費者は原価計算をする」という話である。

 同じ素材、同じデザインのマグカップのうち、大きなサイズのものと小さなサイズのものが同じ棚に並んでいたとする。それを見た中国消費者多くは、それぞに使われてる素材、商品の大きさに基づいた量、そこから計算される原価を瞬時に割り出し、よりお得な「大きめ商品」に手を伸ばすというのである。

こうした特性から考えると、今回「人民日報」をはじめとする、中国共産党によるスターバックス批判は的を得たものであった。「なぜコーヒー1杯がこんなに高いのか。これは暴利だ」というものである。

 

■冷ややかな市場の反応

 この報道、中国政府としては「外資系はあくどい。だから国内ブランドへ」という流れを期待した。しかし…。消費者の反応は極めて冷ややかであった。それどころか、かえって「スターバックス批判を批判する」動きを見せた。いくつかを拾ってみると、

 

・スターバックスはコーヒーじゃなくて「スターバックス」というブランド売っている。

・政府がこの程度の知的水準なんて嘆かわしい

・スタバよりも、国内のデベロッパーの方がよっぽど悪どい(不動産価格の高騰を批判)

 

というものだ。また市場でもスターバックスの客足にもまったく影響を与えていない。

 さらに、海外在住の中国人エコノミストが、こうした報道に対しての「反論」を展開。なかでも『FT中国』の経済評論家・叶檀氏も「スターバックスが中国で行っているハイエンドイメージ、ホワイトカラーが心地よく利用できる環境を保つのは用意ではない。現在コーヒーショップが少なくない現在、消費者はそれを理解しているからことこの店で消費しているのだ」と語り、「定価」とは原価だけではなく、ブランディング、サービスといった条件を含んだ価格であることを説明。「こうした批判は、かえって健全な市場発展を妨げる」とバッサリ。こちらは消費者の喝采を浴びた。

 これらの反応は中国の消費者がスターバックスのコーヒーを、「商品」ではなく、「ファッションスタイル」として消費していることが原因。以前、輸入自動車業界でも同様のキャンペーンが行われ、ランドローバー中国などが槍玉に挙げられたが、同じく消費者の支持を得られず、政府としては不完全燃焼で終わってしまっている。「高級輸入車はステイタス」という意識からなのだろう。

 一連の騒動を見てみると、中国の消費者も、これまでの「コスト=すべて原料価格」という意識から、「サービスという付加価値を含めた価格設定」を受け容れていることがわかる。そしてこの「商品+サービス」とは、日本がもっとも得意とする売り込み方。東京オリンピックを引き寄せた「おもてなし」の精神で市場開拓できる土壌が整えられている。

(China Brand News vol.18より転載)

 

上海市内のスターバックス。報道後も客足は絶えていない。

 

上海で価格について聞くと、利用者の多くが

「まぁちょっと高いかもしれないけど、そんなものじゃない?」という反応。