China Joy2013と中国ゲーム市場

 

矢野経済信息諮詢(上海)有限公司

中国クールジャパン/オタク市場調査担当

 

 7月25日から28日、上海市で中国最大級のゲームイベント「China Joy」が行われた。先に紹介したCCGは「アニメ・ゲームイベント」であり、どちらかといえば『アニメ』の色合いが強いが、こちらは純粋なゲーム一色のイベント。毎回、各ゲームメーカーが力を注いだ新作ゲームと、各ブースの美人Show Girlで話題となるイベントである。

 イベント終了後の7月29日にメディアを通じて発表された来場者数は、4日間で約20.3万人。昨年の16万人を大きく上回り、過去最高を記録した。

 筆者が会場を訪れたのは、会期3日目となる7月27日土曜日であった。この日は週末ということもあり、来場者が急増。チケットを購入し、実際に展示スペースに入るまでに1時間以上を費やすこととなった。

 

会場に到着したのは午前10:00ごろ。夏休みの週末とあって、会場には長蛇の列。チケットを購入し、セキュリティチェック、

そして正式な入場を果たしたころには「まもなくお昼ご飯」だった。 

 

 異様な熱気をたたえるゲームファンとChina Joy名物の煌びやかなshow girlに埋め尽くされた会場は、まさにゲームの祭典の名にふさわしい盛り上がりを見せていた。会場には、各ゲームメーカーが一押しのゲームを出展。華やかなパフォーマンスと、来場者が直接その場でゲームを体験でき、その成績によって景品をプレゼントするなど、ゲームマニアが喜ぶ仕掛け満載で、どこのゲームメーカーブースも大賑わいとなっていた。

■成長する中国のゲーム市場はネットゲームが9割

 そんなイベントの盛り上がりからも想像できるように、近年の中国では、若者の間にゲームが普及。国内のゲーム市場が成長を続けている。

 中国出版工作者協会游戯出版物工作委員会(以下:GPC)では、毎年『中国游戯産業報告』を発表。業界情報を詳細に分析しているが、同組織から2013年1月に出された『2012年度中国游戯産業報告』では、中国のゲーム産業の売上げ額が602.8億元に達していると発表された。さらにそれは今後も引き続き成長を続けると見られ、2015年には1000億元を突破、2017年には1200億元を超えると見られている。

 

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

   (20013年から2017年はGPCによる予測値)

 

 この成長著しい中国のゲーム市場だが、その構成は日本のそれと若干趣を異にしている。下の表を見て欲しい。

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 見ての通り、ネットゲームだけで95%のシェアを占めており、「ゲーム=ネットゲーム」の様相を見せている。

 日本では80年代に任天堂の「ファミリーコンピュータ」が登場し、それ以降、ソニーやセガ、マイクロソフトなどが家庭用ゲーム機を開発・市場投入してきた結果、家庭用ゲーム機が大きなシェアを占めている。しかし中国では、ライセンスや中国関連機関による認可の問題から、こうした家庭用ゲーム機が参入しておらず、結果、パソコンからインターネットに接続して楽しむネットゲームが主流となったのである。

 ちなみに、上海などではニンテンドーDSやPSPを持ち歩く姿を見かけるが、ほとんどが香港経由での密輸入品(中国では「水貨」と呼ばれる)である。中国では日本のハードは高い評価を得ているが、上記の事情から流通していないのである。

 

■ゲーム業界を牽引するネットゲーム市場

こうした事情から、中国のゲーム業界でネットゲームは一番の稼ぎ頭となり、市場を牽引。2017年においても、全体の9割を占めると見られている。

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

   (20013年から2017年はGPCによる予測値)

 

 また、パソコン関連機器メーカーも「ネットゲーム」を中心にすえた商品ラインナップをすることが多い。

 例えばゲームに利用されるパソコンにおいても、intelなどがゲーム対応のハードウェアを開発し販売。さらにはキーボードや操作スティック、メモリー、音響用のヘッドホンなど、パソコン周辺機器も「より快適なゲーム環境」を売り言葉に、集客を図っているのである。

 そもそも、パソコン本体がゲームを主目的に購入・使用されることも多いため、上海市内のパソコンショップを歩いてみても、「ネットゲームをする? ゲームをするならこのタイプがお薦め」といった営業をかけてくる。若者向けパソコン市場にとって、ネットゲームが大きな収益を生んでいるのである。

 

 

中国のネットゲームユーザーはパソコンのスペックや周辺機器の品質にもこだわりを見せる。これらは絶えず進化しており、

China Joyもそうした新製品を直接ゲームユーザーにPRする場となっている

 

■レベルの向上により国産ゲームが人気に

 このネットゲーム市場であるが、クリエイティブ関連業界では数少ない「国産優勢」市場でもある。

 特に『三国志』などの中国史をベースにしたものや、中国の神話・伝説をもとにした中華風のゲームは、若者にとっても親近感を持ちやすいためか、高い人気を誇っている。海外系ではやはり「ファンタジー」、そして「ミリタリー」ものが人気だが、こうしたゲームにおいても中国大手ゲームメーカーから国産ゲームが登場しており、海外勢に引けを取らない。

 また、出展企業の中には中国の若者向けにゲームデザインの教育を施している企業も見られ、そのレベルの更なる向上が図られている。

ただし、会場で話を聞いたネットゲームユーザーからは、「グラフィックには不満はないけれど、もう少しストリー性を求めたい。キャラクターの設定などは、海外のものの方がいい」といった声も聞かれていた。

 

 

国産系のゲームでは、中国風ファンタジーRPGや格闘、さらには戦略シュミレーションやミリタリーなど、数多くのゲームが登場している。

その多くが「中国風」をうたった物となっており、西洋風ファンタジーを扱うのは、日本を含めた海外ゲームメーカの作品であることが多い 

 

■20代が主力ユーザー。課金型も普及

 こうしたネットゲームのユーザーだが、下のグラフを見ると大学を卒業する19歳から25歳まで実に全体の約半数を占めており、20代後半をあわせると6割を超える。

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 その理由だが、下の有料のネットゲームユーザーの伸びと合わせて考えてみる。

 中国でもっとも強いのは「無料」型のゲームではあるが、こうしたゲームはその機能にも制限がある。ゲームそのものを十分に楽しむには有料のユーザー登録やオプションの購入などの消費が求められる。以前はここに消費するということに対して消極的だったユーザーが多かったが、近年は多くのユーザーが無料ゲームに飽き足らず「より楽しむための消費」を受け入れ、有料のネットゲームを楽しんでいると思われる。

 

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

■これからの伸びが期待されるモバイルゲーム市場

好調なインターネットゲームのほかに、現在注目されているのが、「モバイルゲーム」市場である。2012年の時点ではゲーム市場の5%程度を占めるだけだったが、タブレット端末やスマートフォンの急速な普及によりシェア拡大が期待されているのである。実際に出勤途中の地下鉄内やカフェなどで、モバイルゲームに興じる若者をよく見かけるようになり、そのユーザー数も増加しているように見られる。

出典:『2012年度中国游戯産業報告』をもとに矢野経済信息諮詢(上海)有限公司にて作成

 

 今回のchina joyにおいても中国電信、中国聯通などの電信会社が巨大なブースを設営し、そのソフトをPR。特に中国電信においては、新型スマートフォンとともにゲーム、そして通話料をパッケージにした商品を紹介していた。

 

中国最大手の電信会社、中国電信のブース。ハード、ゲームそして通話料金を合わせたパケットが紹介されていた

 

 中国ゲームファンたちの熱気と、市場全体の盛り上がりを象徴したChina Joy。今後の成長にも期待が集まる。